甘い香り
ガソリンスタンドでバイトをしていた高耶さんと、そこの常連だった私が出会ったのは今から半年前。
一目ぼれしてしまった私は、ぶっきらぼうな彼の心を開かせようとしていた。
自分の本心を隠したままで、お友達から始めましょうとばかりに食事に誘い、彼が行きたいと言ういろいろなところに一緒に行ったりもした。
信頼を寄せてくれるようになったころ、我慢できずに心の内を告白すると、彼は私の想いを拒絶した。
当然の反応だと思ったが、それでも自分自身が拒絶されたわけではないことを知り、諦めきれずに彼のいるスタンドへ毎日のように通った。
自分でもストーカーじみているという自覚はあったが、彼はそのことを気にする風でもなく、前よりは格段に少なくなってしまった笑顔をたまに見せてくれていた。
そうしてしばらく何もないように日々が過ぎていったが、これは私にとっても彼にとっても良い状況ではない、というのだけは分かっていた。
そして、二度目の告白。バイトが終わるのを彼のバイクが置いてある駐車場で待った。
彼が私を見て、驚いた顔をしつつも、なんだか嬉しそうな表情をした気がして、気付いたら私は彼を抱きしめていた。
オイルの匂いのする彼を胸に抱きながら、叶うことのない願いを口にする。
「私の隣にいてくれませんか…?」
彼は、ピクリと肩を揺らした。私を傷つけないようにどう断ろうかと考えているに違いない。
しかし彼の口から放たれた言葉は
「いいぜ…あんたと付き合っても…」
私は信じられなくて、これは夢なのだと思った。最近寝ても醒めても彼のことばかり考えていたから。
しかし、目の前の彼は、驚いて止まってしまった私の口に、触れるだけのキスをくれたのだった。
それが、つい3週間前の出来事だった。
ある日曜日、私がいつものように高耶さんに付きまとって掃除の邪魔をしていたとき、ふとした疑問が浮かんで、思わず口にした。
「高耶さん、あなたが私と付き合おうと決意してくれたきっかけってなんですか?」
2、3日前に言われた、抱きつかれずに告白されていたら断っていたかも、という聞き捨てならないセリフを思い出したのだ。
その時はそのまま流してしまったが、一度気になると聞かずにはいられない。
「何って…?」
高耶はよくわからない、といったように首をかしげる。その仕草までもが押し倒したいほどに可愛いのだが、そうもいかない。
まだ私たちは清い関係なのだから。
体が目当てと思われるのは嫌なので、暴走しそうになる体を何とか宥めつつ、未だにキス止まりだ。
「一昨日くらいに、抱きつかれなかったら私とは付き合っていなかったかもと言っていたでしょう」
そこで高耶があ、という表情をする。その表情までもが押し倒…(以下略)
「う〜ん…まぁ、そんなんどうでもいいじゃん?オレたち、こうして付き合ってるんだからさ!」
頬を少し赤らめながら言う彼に、思わず前かがみになりそうになりながらも、
「ダメです。答えてくれるまで離しませんよ!」
と、彼の体に抱きつく。しまった。これでは下半身がナニかしたときにバレバレではないか。
「おい・・・!やめ…」
彼の真っ赤になった項を見ながら、下半身に血が巡らないようにあまりない理性を総動員して耐える。
「高耶さんが理由を言ってくれたらやめますよ?」
高耶さんが早く言ってくれないと俺もヤバイのだが、そのことは表には出さない。
「〜〜〜!!・・・・から・・・!」
「え・・・?聞こえませんでした・・・」
「だから!お前に抱きしめられたときの匂いがすんごい良かったから!」
真っ赤な顔を上げて俺を睨みつけてくる彼の、なんと色っぽいことか!!
しかし、そのセリフで私はショックを受けていたので、体が暴走することはなかった。
匂い…私はいつも香水を付けている。つまり、あの香りをつけているヤツなら誰でも良かった!?
「…違うって!」
どうやらモノローグが声に出ていたらしい。高耶さんは、憮然とした顔で俺を見つめ続け、
「おまえ自身の匂い!それに…最初の時も、別におまえを好きじゃなかったわけじゃない。
いや、むしろ好きだった…と思う。でも、オトコ同士だし、混乱してたし、それに!おまえみたいないい男、きっと女に飽きてオレで遊ぼうとしてるのかと思ってて…そんで……本気になって苦しい思いするのは…ヤだから…」
考えているうちに感情が昂ぶってきたのか、伏せてしまった目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「…それにおまえ、あんまり抱きしめてくれたり、キス以上のことしないから、もしかしてオレってそう魅力ないのかなと思って…ちょっと…」
と、今度は赤くなってぼそぼそと話す。どうやら、「抱きしめられなければ付き合わなかった」というのは、抱きしめられたりしたいという合図だったようだ。
そういえば高耶さんは両親からの愛に乏しい子供時代を過ごしたと言っていた。スキンシップはあまり得意ではないようだが、抱きしめられると安心する、とも言っていた。
あまり過剰にスキンシップをすると、私の理性がもたないので控えていたのだが、どうやらいらぬ心遣いだったらしい。
あんなものすごく遠まわしな言い方でしか寂しさを伝えられなかった彼を愛しく思い、安心させようと額にキスをする。
「そんなことないですよ。私もずっと我慢してたんです。こうなってしまうから…」
そう言いつつ、項にキスを落としながら下半身を彼に押し付ける。
「あ・・・っ!」
彼はますます顔を真っ赤にさせて俺の腕の中で身を捩る。
だがもう離さない。
「…掃除はやめて、ベッドに行きましょうか…」
彼の体も火照っているのを確信し、耳にそっと囁いてやる。
彼も熱い吐息を漏らしながら、おずおずと頷いたのだった。
初めての情事のあとの、とろけるような心地良い気だるさのなかで彼の呟きを聞いて、私の胸がぽっと温かくなった。
「付き合ったのなんて、愛してるからに決まってんじゃん…」
私の胸に顔を押し付け、
「この匂いも好きだからだけど…」
と言いつつ、仔犬のように匂いをくんくんかいでいる。
彼曰く、私は香水をつけていないと甘い匂いがするそうだ。
そんな彼の背中は、太陽の匂いがする。
全くもって何を書きたかったのか分からない感じですが、
私は人の匂いを嗅ぐのが好きなんですよ〜(人工的な香水とかではなく、汗の臭いでもないですよ!)
なので、高耶さんが直江のことを匂いがきっかけで好きになる、という話を書きたかったのだと思います。
書けてませんが。(汗)
高耶さんは太陽の匂いがするっていうのは私のイメージであり、希望でもあります。
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