パー直江物語7<最終話>
それからまた何日か経ったある日、いつものようにバイトから帰ってきた高耶。
「ただいま〜」
だが、いつもすっとんで出迎えるタバコの姿が今日はなかった。
「?」
おかしいと思いつつも、部屋に入ってみるが、姿は見当たらない。
まさかいなくなった?
高耶は急に焦りはじめた。
どうにかして元の姿に戻り、何も言わずに出て行ってしまったのだろうか。
「パー!?パー!」
呼んでも返事はない。
「直江!いるんだろ!」
ベッドの布団をめくってみたり部屋中を探してみたが、どこにもいない。
あとは風呂場とトイレくらいだ。
高耶は風呂場を覗いてみた。
そこには風呂桶にもたれかかってぐったりとしている直江がいた。
「直江!直江!おい!しっかりしろ!」
いったい何があったのだろうか。
まさか滑って転んだ拍子に頭を打ったのだろうか。
だとしたら迂闊に動かすことができない。
「なお…っ」
高耶はなんだか泣きそうになってきた。
最初はワケのわからない生きものに懐かれてしまったと、うざったくさえ思っていたのに。
こうして、もしかしたらそいつが死ぬかも知れないという状況になってみて、自分の中での直江の大きさに気付いた。
そのとき、直江がかすかに動いて呻き声をあげた。
「う…」
「直江!?」
うっすらと目を開けて焦点の合わない瞳で高耶を見上げる。
「たか…やさん?」
「直江!どうしたんだ!?大丈夫か?」
少し涙ぐんだ高耶を認め、直江は安心させようと優しい笑みを浮かべた。
「ええ。ちょっと立ちくらみがしただけです」
高耶はベッドに寝かせるために、直江に無理矢理肩を貸す。
途中、直江を例の頭痛が襲った。
「く…っ」
がくりと膝を付き、頭を押さえる直江。
その様子を見て、高耶はまた体が芯から冷たくなるような気分になる。
「直江っ!しっかりしろ!」
その場に横たわらせ、直江を上から見下ろす。
直江はそれを薄れゆく意識の中でぼんやりと見つめていた。
高耶さん…泣かないで…
どうして泣いているんですか…
あなたがなくと私まで悲しくなってしまうんです
高耶を慰めようと手を伸ばそうとするが、体が動かない
なぜだろう?
だんだんあなたの顔が霞んでゆく。
あぁ…彼の涙をぬぐってあげられない……
「直江!なおえーー!」
直江の体から力が抜けた。意識を失ったらしい。
「なおえ…いやだ!オレをおいていくな!」
涙がとめどなく溢れてくる。
直江がこのまま死んでしまったら自分は生きていけない。
そこまで思いつめるほどに、高耶の中の直江の存在は大きくなっていた。
どうしたら直江を助けられるのだろう…
そう考えたとき、ふと初めてあった頃のことを思い出した。
『美女と野○のパクリじゃん』
自分のセリフだったが、もしかしたら、という考えが頭をよぎる。
直江の手を取ろうとして、その冷たさに恐怖さえ覚えながらも、その手に自分の手を重ねる。
そして
「直江、死んじゃやだ…置いていかないでくれ…」
手を自分の頬に寄せながら直江を見つめ続ける。
その手は高耶の涙であっという間に濡れてしまう。
「やっと気付いたのに…お前を失いたくない…!」
ぎゅっと目をつぶった拍子にまた涙が零れ落ちる。
直江に覆いかぶさって、想いを告げる。
「直江…愛してるんだ…!」
高耶の愛を知ることで、直江は元に戻るはずだった。
しかし、直江に反応はない。
急速にその体から温もりが消えていくだけだ。
「なんで…っ」
もう手遅れだったのだろうか。
どうしたらいいのか分からずに焦燥だけが高耶を襲い始めた頃、どこからかからすの羽が舞い落ちてきた。
そしていつの間にか目の前に、黒髪の美しい青年が立っていた。
「…だ…だれ…?」
高耶は涙で濡れた瞳を大きく見開き、目の前の光景に見入る。
「私は高坂だ。この男に呪いをかけた。」
「!!」
こいつのせいで直江は…!そう思い、飛び掛ろうとしたが、体が動かない。
「焦るな。人の話は最後まで聞け。」
どうやらコイツの術のせいらしい。
「この男が助かるにはそなたの愛が必要だ。だが、言葉にしたくらいで解けるような術ではない。」
どうやらこの呪いを解く方法を知っているらしい。
「…じゃあどうしたら…」
「さぁ?まさか本当にそなたがこの男を愛するとは思ってもみなかったからな…私にも分からない」
「なんだよそれ!どうすりゃいいんだよ!!」
高坂は、悲痛な叫びを上げる高耶を見やり、
「…眠り姫を起こすには王子様の口付けと相場が決まっておろう!」
と言う。
「口付け…」
そう口にした次の瞬間、高耶の顔が真っ赤になった。
「ほら、早くせんとほんとにやばいぞ!」
はっと直江を振り向き、高耶は意を決して直江に顔を寄せる。
ぎゅっと目を瞑り、直江の冷たくなった唇に自分のそれを重ねた。
高坂はその様子をじっと見詰めている。
高耶が身を起こし、目を開くと、直江の鳶色の瞳がそこにあった。
「なおえ…っ」
そのまま、直江にしがみつく。
「高耶さん…?私はいったい…」
「ばかやろう!心配掛けやがって!!」
泣きじゃくる高耶の背中を宥めるように撫でて、
「すみません。あなたを泣かせてしまった…」
と直江は困ったように笑っていた。
「二度とこんな思いさせるんじゃねぇ!」
「はい。…高耶さん」
そう声をかけて直江は体を起こした。
高耶を引き離し、その涙に濡れた瞳を見つめて囁く。
「あなたを愛している…あなたが私を助けてくれたんですよね?」
高耶は顔を真っ赤にしながらも、直江の言葉に頷く。
「嬉しいです」
そう言ってまた高耶の体を抱きしめる。
互いの想いが通じ合ったいま、言葉よりもその温もりがほしかった。
そうして、二人の影は、しばらくの間離れることはなかった。
さて、そのころ高坂は…
「今回のオンリーの原稿はコレでばっちりだ…!まぁよくもここまでベタベタな筋書きでことが進んだものだ…」
そう言いながら、10月17日に向けて描き始める決意をしていたのだった。
fin
とりあえずはコレで終わりです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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戻りんヌ