|
私の愛する人は意地っ張りで素直になれない。 そんな様子が明確にわかってしまうから、ますます愛おしさが募る。 そして、ぎゅうっと抱きしめたいという思いと、なかなか本心を伝えない可愛らしい(と言うと彼は烈火の如く怒るだろうけれど)その唇を自らのそれで塞いでしまいたい と言う衝動とがない交ぜになった、なんともむずがゆい気持ちになるのだ。 彼は、私が一方的に想いを伝えるだけだった頃からそうだった。 私がことあるごとに食事に誘うと、彼は必ず「ヒマだから」と理由をつけて付き合ってくれた。 そして私はその度ごとに自分の想いを告げていた。 彼を目にするとその仕草の一つ一つが愛しくて、言わずにはおれないから。 初め、彼は「何言ってんの」と驚いていたようだったが、あんまり私が言うもんだから、だんだんと態度がそっけなくなっていった。 「あっそう」だとか「またそれ?」とか…。 だが、態度がそっけなくなっていく程に、顔はもとより、耳や首筋までも真っ赤にしている自覚は彼にはないだろう。 そのとき私は確信してしまった。 彼は気づいていないだろうが、その気持ちが私に傾いていることを。 自惚れだとか気のせいだと言われるかもしれないが、しかし、彼と二人で歩くときの距離が縮まっていくほどに、その思いは強くなった。 そんな時、謀らずも彼の気持ちを彼自身にも気付かせることになり、今、こうして二人で「恋人」として日が暮れかけた公園を並んで歩いている。 彼は相変わらずだ。 さっきから私の右手をかする彼の左手は手を繋ぎたいという、無意識のサイン。 甘えたがりのくせに、決して自分からすり寄ってきたりしないその姿は、猫科でもプライドの高い虎と言ったところか。 そんないじらしくさえある様子を見ていたくて、こちらも少し意地悪をして気付かないふりをする。 彼自身も、そんなことを自分が思っているという自覚すらないから、気にする素振りもない。 だが、ずっとそうしているとだんだんと寂しそうな表情になってくる。 彼はなんで自分が寂しくなっているかなんてわかっていないだろう。 もしかしたら、寂しいということにも気付いてないのかもしれない。 彼にそんな顔をさせたのは自分であるにも拘らず、私は急に居たたまれないような気分になる。 そして彼を甘やかせたいという欲求が沸いてくるのだ。 彼の無意識下での甘えたい衝動を、無理やりに引きずり出して、自分に溺れさせるくらいまで。 そんな一種乱暴でさえある気持ちを持て余しぎみに、当面の彼の心を汲んでやることにした。 おもむろに彼の左手を掴んで、彼が驚くのも厭わずに、自分のコートの右ポケットに入れ、中で指を絡ませて手を繋ぐ。 「な、何す…!」 また文句を言いかける彼を制して、そのまま歩き続ける。 「だって、あなたの手は冷えているでしょう?こうすれば、温まるのも早い」 そう理由付けをして、彼に反論を許さないように少し早足になる。 「だからって…」 まだ何かを言いたそうにはしているが、その表情は照れていながらもどこかほっとしたようなものだった。 全く…。これだから私はあなたから目を離せない。 そう心の中で一人ごちて、また歩くスピードを緩めた。 |