どうやら弥勒と言えどもその方法は知らないようだ。
「弥勒の能力を使えば不可能ではない」
弥勒の力っていったら時空縫合かしら?でも能力を持つ本人にわからない方法でどうやって??晴家の頭は疑問符で一杯だ。
「まぁ、高耶が戻るんなら喜んで協力するけど。でもなんでお前がそんなことしようとするんだ?あ、しかも浄化したんじゃなかったの?」
「今更ですな、弥勒殿。ちなみに、その質問はどちらも答えは同じものになりますぞ」
「???」
そんな答を聞いても、譲は何がなにやらわからない。
「そんなことより、景虎どのを救いたくはないのですか?」
…すごく気になるが、とりあえずは高耶のことが先だ。
「…どうすればいいか教えてよ」
高坂によると、局地的に時空縫合を起こし、時間軸がずれるのを利用するらしい。
が、詳しい方法は晴家には理解できなかった。
「じゃあ、この桜のトコだけを時空縫合にかければいいの?」
譲も自分がすべきこと以外は理解していないようだ。
なんとも不安は残るものの、今は高坂だけが頼りだ。
「あぁ。だが花びら一つ散らしてもなりません」
「わかった。それじゃあ、離れてて」
高坂は一歩身を引き、またどこから出したのか、新たな呪符を手にしている。
「これは私が長年コツコツと力(りょく)を溜め込んできた呪符だ。名付けて五百枝王・特濃小錦太郎君Vol.3!」
もはや誰も聞いていないというのに、説明し続ける高坂。
そんなことをぶつくさ言っているうちに、譲の周りに力によるプラズマ現象が起きている。
「さすがは弥勒…。全てを使い果たして寝くさっていたと思ったらばこんなに力を溢れさせるとは」
高坂もゴクリと唾を飲む。
『確かにすごい力だわ…高坂の中じゃなかったら私も巻き込まれてしまってたわね』
次の瞬間、高耶の桜の木だけが異様な気を発してその周りの空間がゆがみ始めた。
「今だ!」
高坂の『特濃小錦太郎君Vol.3』がその空間に投げ込まれた。
大きすぎる力と力がぶつかり合い、激しい雷電が鳴り響く。
「…くっ」
護身波を張っていても押しつぶされそうな圧迫感に、譲自身も辛うじて耐え忍ぶ。
カッ・・・と最後に閃光を発して雷鳴は止んだ。
そこだけ爆発があったかのように、黒い煙がもうもうと立ち込めている。
桜の木があった場所には、覗き込まなければ中が見えないほどの穴が開いていた。
その穴の横には譲が倒れている。
『譲君!』
晴家は慌てて譲に呼びかける。
「大丈夫だ。ただ気を失っているだけだ」
高坂も額の汗を白いハンカチで拭いながらその穴に近付く。
果たして本当に高耶は蘇えっているのだろうか?
もしこれが失敗していたら、高耶の桜さえも失ってしまったことになるのだ。
思ったよりも深くない穴の底で、高耶は、母親の胎内にいる時のように膝を抱えて眠っていた。
いや、眠っているというのは違う。
この体には魂が入っていない。
ここが浄化された神聖な場所だから長くそのままでいられるが、ここから出れば謂わば他の死体と同じなのである。
高坂はニンマリと微笑むと、
「かぁあ〜かあかぁ!」
と空に向かって叫んだ。
『!?』
すると東の空から結構な数の鴉が南西へと飛んでゆく。
どうやら直江に知らせに行ったようだ。
「さて、我々の仕事は一先ず終わりだ。あとは直江が来るのを待つだけvv」
心なしか少し弾んだ声で言うと、譲を揺すって起こす。
「景虎殿の体を蘇えらせるのに成功しましたぞ」
「ん・・・?……えっ!本当!?」
ガバッと起き上がると、顔がくっつきそうになるくらいまで高坂に迫ってくる。
弥勒に怖いものなどないのだ。
「…あぁ。その穴の中に」
少しビビりながらも穴を指差す。
高坂をポイッと放りだすと、その穴に駆け寄る。
「ほ・・・ほんとだ!高耶〜!!」
鬼の目にも涙、黒成田の目にも涙、である。
「こ・・・こら!触ってはいけませんぞ!」
「え?そうなの?」
「触っては元も子もなくなってしまう!」
心底慌てる高坂なぞこれまで見た人があろうか、いやない。
これも弥勒の力だろうか…。