高坂と一緒!5


そのころ長秀は、一つの岩の前に立っていた。なぜか酒を持ち、その岩を見つめている。

その姿は、千秋修平のものだった。

結んでいない長めの髪が風になびく。

気付いたらこの体だったのだ。直江も初めは驚いていたが、もしかしたら勝長がどうにかしてくれたのかも知れない、と言っていた。

「とっつぁん、意外と癒し系だったからなぁ」

自分の言った冗談に、千秋は笑う。

初生で川中島の合戦で戦ったのは、夜叉衆の中では長秀と勝長だけだった。

戦では共に「血染めの冠状」を受けた者同士でもあった。

他の三人は息子世代であり、勝長にとっては本当の息子も同然で、いつも見守っていてくれた。

「ご苦労さん」

そう言うと、千秋は持っていた酒を岩に掛けだした。

「400年も子守をさせられてりゃ、いい加減休みたくもなるよな」


千秋の顔には優しい笑みが浮かんでいた。


そのとき、

『…で…なが…ひ…長秀!長秀!』

「んぁ!?」

聞きなれた思念波を感じ、千秋は聞き耳を立てる。

『今どこにいるの?』

「晴家?どこって…」

思わずあたりを見回してしまう…。

『まぁ、どこでもいいからはやく伊勢に来てよ!』

相変わらずヒトの話を聞かない晴家。

「伊勢って…オレぁ今新潟に…」

『景虎が生き返ったのよ!』

「!!」

さすがの千秋も息を呑む。

魂核が消滅しかかっていた景虎が生き返ったと言うのはどういうことなのか…。

冗談にしては真面目な声音の晴家に、千秋は心臓が跳ね上がるような気がした。

「ど…っどういう…ことだ?」

『そのまんまよ!生き返ったんだってば!』

信じられない。あのときの景虎を見ているだけに…。

魂核はもう疲弊しきっていて、換生するどころか、この世に存在することさえ不可能なはず。

謙信公さえどうすることもできなかったこと、ましてやその魂核を救うほどの大きな力の発動は感じなかった。

「!」

そう言えば、さっきもう存在しないはずの弥勒の力を感じたような気がした。

死んだものだと思っていたから気のせいかとしか思わなかったが、今思えばあのくらいの力の大きさなら、ともすれば…

「本当なのか!?景虎が…本当に…」

急に鼓動が早くなった気がする。

本当に…?どうやって?そんな疑問符ばかりが浮かんでくる。

『本当だってば!早く伊勢に来て自分の目で確かめなさいよ!』

「わかった!すぐ行く!」

千秋は取るものも取りあえず、その場をあとにした。


こちらのんきな高坂・晴家・譲の三人組。

「千秋、来るって?」

譲は晴家に話しかける。

「うん。でも…なんか、新潟にいるとかって…言ってたような…?」

「へ…へぇ…じゃあ、だいぶかかるんじゃ…?」

体は高坂なのに、女言葉を喋るのが不気味で、思わずどもる。

「あいつのことだから催眠暗示でも使って来るんじゃないかしら?」

「おそらくそうだろうな…」

一つの体で二人で話すのもまた奇妙で、譲はある意味退屈しないでいた。


それから数時間後、暇を持て余しきった三人はしりとりの25本勝負をしていた。(アホ)

「それさっきも言ったじゃん!」

「それはこの前の回の勝負のときよ!」

と不毛なやり取りをしている。


そこへ、一台のタクシーが止まり、中からボロボロになった直江が出てきた。

「直江さん!!」

「直江!!」

譲も晴家も同時に笑顔になる。

「た、高耶さんの体は…」

さすがの直江も疲労困憊しているようだが、自分の中で眠っている高耶にだいぶ励まされているらしい。

「やっときたか…暇すぎてこれからしりとりの23順目に入るところだったぞ」

直江は高坂のたわごとに付き合っていられんとばかりに、桜の木のあったところへと一直線に向かう。

鼓動は早まり、額には暑さとは違う理由で汗が浮かんでいた。

「高耶さん…」

桜のあった場所の穴の中に、胎児のように膝を抱えるようにして高耶の体があった。

とうとう直江は、高耶の体と対面したのだ。

最後に言葉とキスを交わしたときとなんら変わらないその身体…。

直江は涙が流れるのもいとわず、その場に膝を付いた。

「高耶さん…起きてください…」

胸を押さえながら、自分の中の高耶に呼びかける。

『直江…?なに?』

高耶の意識は割とはっきりしているようだ。

「これからあなたを元の、『仰木高耶』の体に換生させます。大丈夫ですか?」

『ホントに…?なんだか信じらんねぇ…』

直江は自分も同じ気持ちだったが、高耶に不安を与えたくなくて、

「ええ。もう一度…あなたを抱きしめられるんです」

と言った。

続く >>