パー直江物語1


うだるような暑さが連日続いていたある日、一人の青年が自動販売機の前にいた。

その青年は、熱射病寸前の朦朧とした意識の中でただひたすら飲み物を求め、この自販機にやっとの思いで辿り着いたのだった。

かすむ目にはしたたる汗が入り、よく見えない。何でもいいから飲みたい!

という想いで唯一の所持金である500円玉を投入し、テキトーにボタンを押した。

ピーという音の後、ガコン!と、冷たい飲み物が落ちる………はずだった。

しかし聞こえてきたのは、カタン、という何とも軽い音。

なんだ?と思って取り出すと、それはタバコだった。そう、しゃがんだ青年の目の前にそびえ立つのはタバコの自販機だったのだ。

隣にある、飲み物の自販機と間違えたらしい。

自分に腹が立ちながらも、クラクラするので悪態をつくこともできず、手にしたタバコの箱を無意識に開けた。

一本取出し、吸おうとしたところで火がないことに気付き、苛立ち紛れにタバコをぽいっと投げ捨てた。

とにかくおつりで飲み物を!

と、そのとき、今タバコを投げ捨てた方向から、何か聞こえた。

何かと思い、振り返る。が、そこには誰もいない。

暑さで意識がはっきりしないせいだと自分を納得させようとしたとき、今度ははっきりと聞こえた。

「高揶さん!」

「仰木高耶さんっ」

フルネームで呼ばれ、青年―仰木高耶は声の主を見つけようと頭をめぐらす。

「ここです!下ですよ」

そう言われ、足元のコンクリートを見るが、そこには先程自分が捨てたタバコが立っているだけだ……………



!!?立っている!?かすむ目をこすり、タバコを見やると、手足のようなものが…見えた…気がした。

『ありえねぇ…オレ、やばい…』

フラフラと足元のおぼつかない高耶に近付き、ぴょこぴょこと飛び跳ねるタバコ。

高耶はもう、立っていられない。体から急激に力が抜けていくのがわかった。

「高耶さん!!」

薄れかける意識の中で、自分の名を呼ぶタバコの姿が脳裏をかすめた。




唇になにか冷たいものを感じ、それが水分だと知ると、高耶は与えられるままにそれを飲む。

と、だんだんと意識が覚醒し、ゆっくりと瞼を上げる。

そこには見慣れた自分のアパートの天井。


『あれ?オレ、どうしたんだったけ…』まだはっきりしない頭で考えようとしたとき、

「気が付きましたか、高耶さん。あなたは脱水症状をおこして倒れてしまったんですよ」

聞き慣れない声を不審に思い、そちらを見ると、手足を生やしたタバコが自分を見つめていた。

「!!!」夢じゃなかった!?と、いうよりも、自分は暑さでおかしくなったのか。

もしくはこの世じゃないところまで来てしまったのだろうか…。

これがあの世の使いなら、死んでも死にきれない!!

「水、飲めますか?」高耶の頭の中などお構いなしに、タバコは小さな体でどうやって運んで来たのか、枕元のグラスを指し示す。

混乱しながらも、喉が乾いて仕方ない高耶は、体を起こしてグラスの水を一気に飲み干した。



人心地ついた高耶は、あの世からの使いの方をちらりと見やる。

…………やっぱりいる。しかもさっきより大きくなっている気がする。

数瞬ためらったあと、高耶は思い切ってソイツに声をかけた。

「おまえ、なんなんだ?」

ソイツは何だか嬉しそうに、

「あぁ、やっとしゃべってくれましたね。私は直江信綱と申します。」と言った。

だが、高耶はあからさまに嫌そうに、

「…タバコとしゃべっちまった」と呟いた。




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