パー直江物語4


「…かや…ん。高耶さん!」

ぼんやりと意識が戻り、これまでのできごとが夢の中のものだと理解する。

しかし、開いた目の前にはパー直江…。

夢オチを望んでいたが、甘かったらしい。

「今日もバイトでしょう?もう九時ですよ!」

そうだった。これが夢の中のできごとでなければバイトという現実が高耶を待っているのだ。

この非現実的な事態が現実だというギャップになかなかついていけない。

体を起こして準備をする。
顔を洗って髪をテキトーに撫で付け、歯を磨く。
ちょっとのびた髭を剃りながら、今日は朝ご飯を食べる時間はなさそうだと考える。

着替えて時計を付け、汗を拭うためのタオルを持ったところでやっと、気付いた。

パー直江が頬をほんのり染めて口を半開きでこちらを見つめている。

「パー…v」

「な、なんだよ!」

見られていることにも気付かずに普段どおりに行動したことが何だか恥ずかしくて、こちらも赤くなりながらパー直江を睨む。

「あ、いえ、寝起きのあなたがあまりにも眩しくて…」

「な!何言ってやがる!行ってくるっ」

パーのくせにクサイことを言うことに何だかバカにされているように感じ、高耶は怒りながら靴を突っ掛けるように履いて出て行ってしまった。

「本気なんですけどねぇ…」



さて、バイトが終わったあと、明日は休み。

久しぶりに酒でも飲みたい気分だ。

高耶は酒に弱いので飲むなら次の日が休みのときがいい。

大学とバイトがあるときはなかなか次の日が休み、ということがない。

だから夏休みの今がチャンスなのだ。

しかし、こういうときに限ってなぜか暇な友人はいないのだ。

「仕方ねぇ…家で飲むか…」

帰り道、途中でコンビニに寄り、チューハイとビール、つまみを買って家に戻る。

「あー疲れたぁ〜」

と独り言のつもりでアパートのドアを開けて中に入る。

「お帰りなさい!」

嬉々とした声でパー直江が出迎えた。

…忘れていた。こいつがいたんだった…

でも、独りでちびちび晩酌せずにすむのだ、と思い、自然と顔に笑みを浮かべて言った。

「ただいま…」




「でさぁ!そいつが変な顔してオレを笑わそうとしてくんの!」

チューハイ一本でもうだいぶ酔ってしまった高耶は普段とは比べものにならないほどに陽気で口数も多い。

そんな高耶をにこにこと見つめるパー直江。

「って…オレばっか喋ってんじゃん!おまえもなんか話せよ」

とパー直江を促す。

「え、私ですか…?私の話なんてつまらないですよ」

「いーから!おまえのこと聞かせろ!」

頬を赤くしながら酒のせいで潤んだ瞳で言われ、仕方なく話しだす。

「私はこうなる前は兄が経営する不動産会社で働いてました。」

「へぇ〜おにーさんしゃちょーやってんら!すげぇな!おまえはヒラなわけ?」

よく回らぬ舌で話す高耶に、この体ではありはしないはずの直江の下半身が疼く。

「私は一応専務という肩書きをもらってますが…」

「せんむ…」

高耶の頭を去来するのはバーコードのような髪型をしたおっさんか、世に言うロマンスグレーのダンディなオジサマだ。

しかし目の前の専務と言えば、タバコ。

もとの姿はバーコードかダンデイなんだろか。

そこでふと気になったことを口にする。

「なぁ、おまえってなんさい?」

専務なんて肩書きがあるのはおじさんというイメージを持つ高耶らしい質問だった。

「私は今年の五月で32になりました。」

「えっ…」

予想外の若さに高耶は驚く。

ここで高耶はパー直江の元の姿の想像がまったくつかなくなってしまった。





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