パー直江物語5


話をしながらもペースの落ちない高耶を心配し、

「高耶さん、そろそろやめておいたほうが…」

と直江が声をかけるが、当の本人は聞く耳を持たず、

「やら!まだのむの!」

と素面の本人が聞いたら恥ずかしさで叫びだしそうな口調で怒っている。

そしてふらつく足取りで立ち上がると、

「といれいってくるっ」

と宣言してふらふらと歩いていく。

狭い部屋にもかかわらず、高耶はトイレまでの短い距離の中間あたりで倒れそうになる。

「危ない!!」

高耶はアパートの畳に背中を思い切り打ち付ける………はずだった。

だが、高耶の体ははなぜか斜めになったまま。

「…?」

恐る恐る目を開くと、誰かが自分を背後から支えるように抱いている。

「まったく…危なっかしい人ですね」

耳元で、パー直江とは比べものにならない深い声がした。

「え…っ?」

自分を包み込むこのいい匂いはなんだろう…そして背中に感じる人の体温…。

アルコールでよく回らない頭を一生懸命働かせる。

「えーと、えーと…」

とりあえず、自分を支えているものの正体を知ろうと、体を捩って振り返る。

そこには、見たことのない男がいた。

178cmある高耶よりもまだ背が高く、しかもこれは世間一般で言う、いい男というやつだろう。

高耶は男の芸能人なんて興味もなければあまり知りもしないが、目の前にいる男がそんなヤツらよりも数倍は『イイオトコ』であることはわかった。

「あ…?え?」

しかし、誰なのかはわからない。

見知らぬ人間がいるというのに、ぽや〜んとした顔でその人間を見つめている高耶。

「あなたは、酒が入ると警戒心がなくなってしまうようですね…」

少し呆れたような声で言われて気付いた高耶がやっと

「だ、誰だテメェ!」

と叫んだ。

するとその男はふぅ、とため息をつき、

「私は直江ですよ。さっきまでタバコだった者です。」

「え…っ」

そういえばパー直江の姿が見えない。

しかし、あのマヌケな姿をしたパー直江の本当の姿がこんなにかっこいいなんて信じがたい。

面影はないし、共通点と言えば、その丁寧な話し方と髪の色くらいだ。

しかし、パー直江は一日少しの間だけ元の姿に戻れると言っていたし、その本人がいないことも含めると、

この目の前のイイ男がパー直江の本来の姿だと考えるのが妥当だろう。

「あー…アレか…」

何か納得したように呟く高耶に、直江が問う。

「何がアレなんです?」

「醜い魔法使いがおまえの容姿にシットしてあんな姿に…」

「いえそれは、ないと思います。あいつは意地悪そうでしたが、とても美しい顔をしていましたし…愉快犯ですよ。」

「ふーん…」

結構いい筋書きかと思ったのになぁ、と相変わらずトロンとした瞳で直江を見つめる高耶。

直江にしてみたらそれはお誘いにしか見えない。

しかもタイミングよく今は元の姿だ。

「たっ高耶さん!」

高耶を抱き締めようとしたその瞬間。

「あ、トイレ行くんだった」

と男の腕をするりとかわし、高耶はよろよろとトイレに入っていった。

残された直江は行き場のなくなった手を握り締め、

「こしゃくな人だ…っ」

と呟いた。





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