パー直江物語6
直江は、高耶がトイレに行っている間、元の姿でもあることだし、と散らかった(と言っても缶はほとんどない)ものを片付けようと振り返った。
そのとき、こめかみにツキンと、軽い痛みが走った…ような気がした。
気がした、というのは、あまりにも一瞬のことで、よくわからなかったからだ。
「?」
気のせいか、と思い、片付け始める。
そこへ高耶が来て、
「お〜わりぃなぁ〜」
と相変わらずちょっと呂律の怪しいしゃべり方で話しかけてくる。
そのあと高耶は眠ってしまい、直江もパーの姿に戻って眠りについたのだった。
それからまた一週間の月日がたった。
高耶は、直江とは初対面ですぐに一緒に暮らす形になったわけだが、なぜか違和感なく馴染んでいるのを感じていた。
自分で言うのもなんだが、人見知りする自分にしては珍しいことだと思う。
あの愛敬のある姿と、人当たりのよい口調のせいだろうか。
そして元の姿に戻ったときの、優しさを湛えた鳶色の瞳と柔らかい微笑み…
なんだか
『安心するよなぁ…』
と、なんだかんだでほだされつつある高耶だった。
そんなある日、いつものようにバイトに行く高耶を見送って、パーはたまにはお世話になっているお礼に掃除でもしようかと思い立った。
帰ってきたらご褒美にチュウなんかもらえやしないだろうか…などというヨコシマな考えも無きにしもあらず…(チュウされるなんてありえないだろうけども)
とりあえず元の姿に戻って掃除を始めようとしたとき、またこめかみに痛みを感じた。
あの日から、元の姿に戻るたびに痛くなる。
しかも日を増すごとにだんだんと痛みも鋭さを増してゆく。
いったいなんなのだろう…。
一瞬ツキッとするだけなのであまり気にしていなかったが、だんだんひどくなっていくことに不安を覚える。
そのとき、まわりで急にカラスがうるさく鳴き始めたと思ったら、目の前にあの時の魔法使いの姿が現われた。
「おまえは…っ」
直江の目の前の美しい魔法使いは口元に笑みを浮かべ、
「久しぶりだな、直江…」
と言った。
直江は警戒を解かずに問う。
「…何をしに来た。高坂」
「ふ、忠告をしに来てやったというのに、そう恐ろしい顔で睨むな」
ぴく、と直江が反応する。
その様を見て気をよくしたようにますます笑みを深くする高坂。
「聞くか聞かぬかはそなたの自由だが…」
「用件を言ってさっさとここから出ていけ」
自分の前にこの高坂がいること自体はかまわないが、この高耶の部屋に踏み入られるのはいやだった。
「では、単刀直入に申し上げよう。そなた、このままでは死ぬぞ」
直江は驚いて高坂を見る。
「最近、その元の姿になると体調がおかしくなるとかいうことはないか?例えば頭痛がするとか、な。」
「なぜ…」
「図星のようだな…」
高坂の顔に先程の嫌な笑みはもうない。
「あの秘術の本当の最終的な目的は…呪殺らしい」
「ただいま〜」
笑顔で機嫌よく高耶が帰ってきた。
「お帰りなさい」
いつものように笑顔で出迎えたパー。
だが、高耶はどことなく元気がないことに気付く。
「どした?なんかあった?」
心配そうに聞いてくる高耶に、パーはさらに笑みを深くし、
「いえ、今日は部屋を掃除したのてちょっと疲れただけですよ」
と言う。
「そうか?ありがとな。でも別に無理しなくていいんだからな」
「無理なんてしてませんよ。それにしても、私がちょっと疲れていることに気付くなんて、私のことを気に掛けてくれているのだと自惚れてもいいんでしょうか」
すると、高耶は直江の予想どおり真っ赤になって怒りだす。
「な…っ!アホ!調子に乗んなバカ!」
「ひどいですねぇ」
くすくす笑いながらもまったく堪えていない様子のパーに、高耶も毒気を抜かれてその話題はそれで終わった。
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戻りんヌ