恋は夕暮れ 5
半ば勢いで来てしまったその店の前に立つと、柄にもなく自分が緊張していると気付いた。
思えば、今まで少ないとは言えない数の女性と付き合ってきたが、自分から告白したこともなければ、告白したいほど好きになった人というのもいなかった。
さらに言えば、物心ついたときからの記憶を探ってみても緊張したということがない。
受験だって就職の面接だって万全に準備をして自信を持って望んだもので、結果は後から付いてくると思っていたし、そもそもこれまでの人生においてここまで欲しいと思うものがなかったのかも知れなかった。
だから、もしかすると失敗して口を利くことはおろか、会うことすらもできなくなってしまうかもしれないということに怯えている。
らしくないとは分かっていても、どうしようもないのだ。
面接で緊張する輩をバカにしていたが、今ならそいつらの気持ちがよく解る。
この俺が怖いと思うだなんて、綾子あたりが聞いたら格好のえさとなり、死ぬまでからかわれることだろうと嘲笑が漏れる。
だがこうしていてもどうしようもない。断られようが罵られようが彼を好きな気持ちは変わらないのだから。
そう思い、店の中に入る。
いた。彼は変わらず書店のエプロンを付けてレジに向かっている。
「いらっしゃいま…」
客が来たと気付いてこちらを振り向きつつ挨拶をするが、それが俺だと気付いた途端ひどく驚愕したような表情になった。
思わずこちらも眉を顰めてしまう。
「…外で待っています。」
何故か声が出ない様子の彼を無視して言いたいことだけ伝える。
これ以上彼の反応を見ているのに堪えられず、きびすを返して外に出る。
これからどうするのか…ここまで来てしまってはもう言うしかないとは解っていても、この待っている時間というのはなかなか堪える。
時間があればあるほど色々な未来を想像してしまうからだ。
しかもそれはことごとく悪い結果でしかなくて。
溜め息をつきつつ、愛車にもたれながらタバコをふかす。
もう足元には何本もの吸殻が散らばっている。
あれから何分たったのか、もう何時間もここにいる気がする。
悪い結果も大方シュミレーションし尽くした。
そのとき足音が聞こえ、顔を上げると彼がなんだか不安げな様子で立ってた。
とりあえず…いきなり言うのもスマートじゃない…よな・・。
「仰木さん、お疲れ様です」
彼は押し黙ったまま、こちらをうかがうようにねめつけてくる。
その様はまるで人慣れない野良猫のようで、彼もまた緊張していることを俺に知らしめた。
それもそうだろう、彼にしてみればこんな時間に理由もわからず呼び出され(正確には俺が勝手に待っていたのだが)、あげく何やら思いつめたような表情で声を掛けられたのだ。
少しずつ距離を縮め、手の届くあたりまで来たときに先ほどよりも口調と表情を意識的に和らげて、今度は名前を呼ぶ。
「高耶さん」
心なしか俯いて彼を驚かさぬようにそっと囁く。
「突然のことで驚かれると思うんですが」
表面上ではわからないだろうが俺の心臓は早鐘を打っている。
「あなたのことをもっと知りたいのですが」
そう言うと、彼はまさにポカン、という擬音がぴったりなほど驚いた表情でこちらを凝視してくる。
…まずい、外したのかもしれない。
「…高耶さん?」
声を掛けるとハッとして我に返ったようだ。
「あ…オレ…」
またも下を向いてしまい、掠れた声でしどろもどろになりながらぼそぼそと答えてくれる。
「オレ、頭悪ィから…何…言われてっかよく…わかんねぇ」
…それもそうだろう。俺だって突然男からそんなことを言われたら混乱する。
ならばと今度は間違えようがないように説明する。
「高耶さんのことが恋愛感情的なもので気になるので、もっとあなたのことを知りたいのですが。」
そう、正に告白とは違う色っぽさのかけらもない説明。
だが、彼にはよく伝わったらしく、こちらを見上げる瞳は潤んでいるような気さえする。
「教えてくれますか?」
彼は俺の理性を試すかのような笑顔ではいと答えてくれた。
<さめコメ>
やっと過去編(?)が終わった…!
直江って私の中でこんなヘタレだったのね…
と思わずにいられません。
いや、本当はもっとかっこいい男なんだけど
高耶さんの前ではそれも形無しってのが好きなんですよ…笑