恋は夕暮れ 4
このシュチュエーションは一体なんなんだろうか…。
あの後近くのカフェに入り、もうこんな時間だというのにスーツ姿の俺とその向かいに先ほど話があると言ってきた二人を座らせた。
普段ならばこんな(俺に言わせれば)子供の一人や二人、決して相手になどしなかっただろうが、高耶さんのことだとなると話は別だ。
「時間も時間だから単刀直入に言うが、彼に関する話というのは何かな」
営業で鍛えた笑顔を浮かべつつしかしはっきりと口にする。
「……じゃあこっちも単刀直入に言うけど、あなたは高耶のことをどう思っているんですか?」
こち―名前は成田譲というそうだ―らも顔に似合わず強い調子で問い詰めてくる。
もう一人の千秋君とやらが小声で『おい、譲』とたしなめるほどに。
「どう…って…」
俺は強く出られたからではなく、詰まってしまった。
それこそ、俺がここ数週間考えても分からなかった疑問であったからだ。
この場を適当に誤魔化そうとも思ったが、おそらく高耶を心底思っているであろうこの友人に対して不誠実なことは言いたくないと考え、正直に答えた。
「それは、私自身にもわからないでいる。だけど彼には笑っていて欲しいと思う…。こんな答えでは納得してもらえないだろうけどな」
半ば自嘲気味にそう言うと、あきれた、とでもいうような溜め息が聞こえてきた。
「全く…ホント二人して不器用なんだね!鈍いって言うかなんていうか…」
この年上を年上とも思わない言い草にむっとしたものの、ここで怒鳴るのも大人気ない気がして自分に冷静になれと言い聞かせる。
「どういう意味かな…」
「そのまんまだよ。普通さ、どうでもいい人に対して笑っていて欲しいとか感じないと思わない?」
そう言うと、もう話は終わったとばかりに立ち上がる。
「高耶はあなたに彼女がいると思って相当悩んでるよ。言っておくけどコレはあなたのために教えたんじゃないからね。
高耶のためだよ。」
よっぽど言いたくないことなのか、こちらを向かずにぼそぼそと言う。
「それと!世間体とか気にして高耶を悲しませたら僕が許さないからね」
今度は勢いよく振り返り、たかだか十数年しか生きていないはずの高校生とも思えぬ迫力でこちらをねめつけて、きびすを返し去っていく。
その後フォローするように千秋君が「すんません!悪気はないんです!」
と言いながら成田君のあとを追いかけていった。
俺の前にはまだ口もつけず、暖かいままのコーヒーが三つ残された。
その夜家に帰ってもあのセリフが頭を巡る。
『どうでもいい人に対して笑っていて欲しいとか感じない』
確かにそうかもしれない。
いや、むしろ少し前の俺なら誰にも興味を抱かずにいたからそのことを実地で知っていると言ってもいい。
ではどうでもよくないならなんなのか…心のどこかではもう気付いていたが、頭はそうそう納得してくれる感情ではない。
彼は明らかに男なのだから。
ふぅ…思わず溜め息も漏れるというものだ。
しかし、目を閉じると彼のはにかむような笑みが瞼に浮かんだ。
それだけでももう自分の気持ちを自覚させられるには十分だったが、まだどこか一般常識的な自分を捨てられず、俺はその映像を振り切った。
それから一週間、長いようで短い時間だった。
意識的にあの書店前とは別のルートで帰ったり、いつもなら受けない女性からの食事の誘いにも乗った。
しかし、そんな行動こそが彼を意識してのことでもあり、どうにも自分の心を占めているのは彼なのだと自覚せざるを得なかった。
もう認めよう。
俺は彼が好きだ。
そう開き直ってしまうと、どうにもじっとしてはいられなかった。
俺は仕事帰りのその足で彼のいるであろう書店へと向かった。
<さめコメ>
優柔不断な男・直江信綱。
一般的な直江(ってどんなんだ?)ならあり得ない心の迷いですね。
それにしても…なんでもお見通し譲。
ここでもやはり最強。