恋は夕暮れ  2


先週の機嫌の悪さから一転、自分では普段通りの表情を出来ていたと思っていたが、 何かなければここまでにこやかではあるまいと言うほどの笑顔を周りに振りまいていたらしい。
そんな様子のオレを放っておくはずがないのが今隣に陣取っている見た目だけはいい女の綾子だ。
こいつとは学生のころからの付き合いで、と言っても別段色っぽい関係というわけではない。
いかんせん中身が男らしすぎるということと、酒癖があまりよくない (ものすごく控えめな表現だ)ものだから、恋愛の対象としてみたことは一度もない。
まぁ、さっぱりとした性格で友人としては付き合いやすいタイプだ。(実際女性の友人はこいつだけだ)
そんな遠慮の欠片もない仲なものだから、逆にこういう時はツッコミが非常に厳しくなるのだ。
「で?なんでそんなに機嫌いい訳?昨日何かあったとしか思えないわよね〜」
横目でじとーーっとこちらを見て、口元には隠せぬ笑みが浮かんでいるのが分かる。
そんなことを言われても自分でも何故こんなに気分が晴れ晴れとしているのかわからないのだから、説明のしようもない。
「別に何もないが…俺はそんなに浮かれているか?」
正直な気持ちでそう言うと、いかにも驚いたという表情で、
「あんた…呆れた…!自覚ないなんて相当よ?」
と言われてしまった。
そう改めて言われると困惑してしまう。
「そ、そうなのか?だが、本当に何もないのだから言いようがない」
今度こそ本当に呆れたというように、ふぅーと深い溜め息をつき、
「じゃあ言い方を変えるわ。この休日中に何か今までと違うことはあった?どんな些細なことでもいいわ」
ちょっと大げさな身振りで俺を覗き込むようにかがめた腰に手を当てて、聞いてくるその様子に圧倒されて、思わず白状してしまうところが 我ながら情けないが、学生の頃からこうなので今さらどうしようもないのは分かっている。
「そ、そういえば本屋のバイトが変わってたくらい…だな、思いつくのは」
そう答えると、綾子はまた、今度はさっきよりも驚いた顔で俺の顔を凝視している。
な、なんだ?何かヘンなことを言っただろうか?こんな些細過ぎる事を聞きたいわけじゃないということか?
たっぷり30秒は経過しただろう頃になってやっと綾子は俺から離れ、
「その本屋、今日行くわよ!!」
と勝手に決めてしまった。何故なのかなんてわからなかったが、ここで下手に反論しようものならまた ギャーギャーと喚き立てられるのがオチだと思い、その言葉に従うのだった。

早々に俺と綾子二人で帰り支度をするものだから、同期の奴らが冷やかしてきたが、そんな関係ではないとわかってのことなので、 特に否定するわけでもなく足早に社を後にする。
ちなみに綾子はいつもなら俺より一つ先の駅で降りるのだが、今日は俺のうちまで来て車で送らせる気らしい。
全く、何故俺が付き合わされた上にそんなことまでしなければならないのか。
そうは思うが、本屋に行くということはすなわち仰木君に会えるかもしれないということなので、特に文句を言うでもなく付いていく。
綾子はその様子にまた奇妙な表情をしていたが、その理由など俺には分かるわけもない。

「しっかし、あんたをそこまで変えちゃうとは…今までの女癖のワルさ嘘みたいにぱったりだもんね〜」
そう言われて自分でも不思議だと思う。どんなにいい女を相手にしようが満たされなかった乾いた心は、彼を思い浮かべるだけで 潤うのだ。
やがて店まで辿り着き、そこでハッと気付く。
「お前、彼に余計なことを言うなよ!!」
そう言うと、ちょっと考えてからとても意地の悪そうにニヤリと笑い、
「さぁねぇ。今までのあんたの行いだからねぇ」
…コイツはこういうヤツだった…。まぁ、コイツが何か言いそうになったら担いででも連れ帰ろう。
そんな風に考えながら店に入る。
眉を顰めている表情を彼に見られると厭われるかと思い、笑顔を浮かべる。
彼も俺たちが入ってきたのを見て少し驚いたような表情をした後、はにかんだような笑顔を浮かべる。
しかしその後すぐにまた目を見開いた。どうやら綾子が目に入ったようだ。
そういえばすっかり忘れていたが、綾子は見た目はいい女だから、もしかしたら高耶さんがそれに騙されるかもしれない。
そう思うとなんだか胸の中にどす黒いもやがかかった気がした。
そこへ、俺にとっては鳥肌ものの綾子の甘えたような声がして、次の瞬間には右腕に腕を絡ませられていた。
「ねぇねぇ、直江〜!」
コイツ、なんのつもりだ?何を企んでいるのか知らないが、高耶さんの前で俺に触るな!!
「やめないか、綾子!」
そう言ってもなかなか離してはもらえず、結局高耶さんと言葉も満足に交わせぬまま店を出ることになった。



<さめコメ>
綾子ねいさんは二人の気持ちに気付いた上で楽しんでます 笑
でも彼女も苦しい恋をしている…のかも知れない
直江がなんかヘタレっぽいですねぇ。っぽいっていうかそのもの…?


BACK NEXT
NOVEL